4 日本における損税問題の解決と課題
(1)解決案@:ゼロ税率の拡大
ゼロ税率拡大(EU各国で採用、輸出産業のみならず医療・教育といった国内産業にも採用)によって、非課税売上に対する仕入税額控除を認める。
@ メリット
・2−(4)と同じ状況になり、消費者への転嫁はなくなる。
・小売業者の不公平感も解消され、転嫁できない状況にある小売業者の救済にもなる。
A デメリット
・現在の帳簿方式(消費税の課税を免除されている業者、及び業者ではない個人からの仕入でも仕
入税額控除を認める方式)では、ゼロ税率(複数税率)は採用し得ない。
・この方式を導入してしまうと、それ以前と同じ税率のままだと税収確保ができない。そしてゼロ
税率事業者の還付申告に耐えられない。
・ゼロ税率の対象が増えると、付加価値税の課税ベースをより縮小させることになる。その結果、
税率を上げざるを得なくなる(→複数税率を採用している国などその典型)。
・ゼロ税率の品目を設定するに際して、定義づけに困難を伴うことが多い。例えば生活に必要な食
料品を非課税とした場合、スーパーで「あなたは今日の晩御飯の食材を買いに来たから非課税」
「あなたは喫茶店経営者として食材の仕入に来たから課税」という状況になってしまう(21)。
(2)解決案A:ゼロ税率とインボイス方式の採用
(1)の解決策として、インボイス方式が考えられるが、その意義と限界について検討する。
@ インボイス方式採用の意義(22)
帳簿方式による付加価値税は、課税標準が包括的に構成され、かつ、単一税率が用いられる場合にのみ、適正に機能しうる。
これに対してインボイス方式による付加価値税は、インボイスの交付を通じて、取引当事者間にくさびをつくり、それにより相互牽制作用を働かせることが付加価値税では必要であるとする。特に、非課税品目や複数税率を採用する場合には、インボイスの交付による相互チェックが重要である。
A インボイス制度導入の限界(23)
インボイス制度導入の限界については、一般には非課税業者(特に零細企業)が取引から締め出されるといわれている。また、他に徴税現場の影響が指摘されている。
わが国より消費税の歴史の長いフランスの場合、導入(1960年)から、複数税率、インボイス制度導入(現行)の法改正に至るまで担当官吏を50倍に増加したのである。税務職員一人あたりの納税者数で、日本はEU諸国の4〜5倍である。ほぼ同じ割合でアメリカの例がある。しかしアメリカは納税者に納税者番号を付与して、その管理予算を手厚くしている。この前例を見た場合、わが国では、税務署員は減少し、消費税以外の国税における申告件数は増加傾向にあるが、この状況にてそのまま導入できるかどうか疑問である(24)。また、日本より非課税取引の範囲を広くしている国、ゼロ税率を採用している国では別紙資料1の通り、標準税率は高い傾向にある。
(3)解決案B:非課税対象物を一貫して非課税とする方法(25)
あらかじめ課税庁の許可を得たうえ、最終業者に対するすべての事業者間取引を税抜きで行う方法。
この場合、最後の業者に還付金が振り込まれることはない。非課税取引で採用されているわけではないが、フランス、イタリアの場合、輸出取引についての事業者間取引を税抜きで行う方法を認めている。
@ メリット
ゼロ税率と同じ効果をもたらすと同時に非課税業者の仕入れ部分に消費税の転嫁が排除される。
A デメリット
やはり、インボイス制度導入を前提としているので(フランス・イタリア)先と同じ問題が生じると考えられる。そして、還付にかかる手続きが煩雑化する
(4)解決案C:非課税取引の縮小
この解決案は、課税ベースの拡大を図るもので、医療、教育、居住用賃貸住宅家賃等まで広く消費税の課税対象とするもの。これまで控除できなかった設備投資にかかる消費税の控除を全額認める。2のモデルで説明すると導入前後で変化する(太字が導入前)。
| |
製造業者 |
卸売業者 |
小売業者 |
消費者 |
税抜き仕入 |
0 |
100 |
200 |
|
税込み仕入 |
0 |
110 |
220 |
|
税抜き売上 |
100 |
200 |
(320)300 |
|
税込み売上 |
110 |
220 |
(320)300 |
|
税収 |
10 |
10 |
(0)0 |
合計(20)20 |
@ メリット
これまで指摘した事業者の損税感、不公平感について特に多額の設備投資を行う業者を中心に減少する。課税ベースの拡大で標準税率を低く抑えることができる。
A デメリット
これまで非課税であった小売業者が課税になるので、その消費税分だけ消費者の負担が増える。そして転嫁できない業者にとっては負担だけ増えることになる。
(5)解決案D:課税売上割合95%基準の見直し
イギリスでは、かつて課税売上割合が95%以上の場合に全額控除をしていたが、課税売上割合を恣意的に操作する業者が生じているとの批判があり、段階的に1%ずつ引上(課税売上割合)され、1987年にこの特例を廃止した(26)。
@ メリット
別章で指摘した住宅の建設にかかる仕入税額の還付を受けるという事例に対する批判は解決される。
A デメリット
このまま日本の制度において95%基準を廃止した場合、一括比例配分方式か個別対応方式を全ての企業がとることになる。税制調査会等では「そうなった場合特に中小企業の事務負担が増大する」と指摘している。これを克服する手当てとして、オーストラリアで採用している「仕入税額が一定額以下においては95%基準の採用を認める」方式が考えられる(27)。
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