研 究 部 の ペ ー ジ
 
2.数値例を用いた損税の検討 4.日本における損税問題の解決と課題
 
益 税 と 損 税
 
V 損 税
 
3 損税問題の検討

 次に損税の問題は、非課税売上に対応する仕入税額控除ができない点にはじまる。 (1)消費者と非課税取引(12)
 一般消費者は「医療や学校教育(授業料)などには消費税のかからない(=課税されない=消費者として税負担がない)」と思っているであろう。
 しかしながら実際は、上記数値例でも示したように、非課税取引であっても、消費者に流通過程における消費税が転嫁されている。
 この実情はまったくと言っていいほど知られていないと思われる。
 その点について最初に触れていく。非課税取引というのは、文字通りに読めば、税がまったく課税されない取引のことと読める。しかし、日本の現行消費税にいう非課税取引とは、不課税取引とは違って、あくまでも事業者の売上に係る消費税が非課税になるのみであり、仕入に係る消費税については、課税取引か非課税取引か考慮されない。すなわち、非課税取引というものは、いわゆる仕入税額控除が受けられない取引をいうのである。

(2)事業者の不公平感の問題
@ 同じ「消費税のかからない」取引を行う企業の主張
 2−(3)と(4)のケースから仕入れ段階の消費税を還付できる、できないという点に着目する。数値例における小売業者の部分で、売上に消費税を課さない部分が同じであっても、仕入に係る消費税の取り扱いが異なることである。
 そこには、同じ売上にかかる「消費税」が0(%)であっても価格の転嫁や小売業者の消費税負担は大きく異なることになる。
 小売業者の側から見た不公平感、「損税」の問題はここにあるのではないか。医師会がいう「輸出業者は仕入にかかる税金を全て還付されるのに、どうして医者は医療機器や病棟の建設費にかかる消費税について全て還付されないのだ」というのはこのことをいうのである。

A 95%と94%、1億円と1,000億円
 現行消費税における課税売上割合95%以上の仕入税額控除について、「大企業に有利となる」指摘と関連して、損税の問題が存在する。
 例えば大企業においても、多かれ少なかれ株式や土地などの売買や社宅家賃の受取といった非課税売上は存在しているであろう(13)。しかしながら、その割合が5%以下であれば、仕入税額控除については課税売上でも非課税売上でも全額控除できる。
 例えば1,000億円の(課税)売上を有する大企業ならば、家賃収入数億円規模の社宅(一般の居住用マンション)を建設し、そこから(非課税の)家賃収入を得ても、その建設費は全額控除できる。ところが、数億円規模の居住用マンションを経営している企業で家賃収入のみである場合、建設費は言うまでもなく、運営費にかかる消費税は控除できない(14)。
 つまり損税の観点からこの問題は「中小企業が対象となる免税点、簡易課税制度についてばかり触れるのではなく、全額控除の問題について大きく展開するべきである」(15)と主張する。また税理士会のみならず、法人会からも「主として大企業が恩恵を受ける課税売上割合が95%以上の場合の仕入税額全額控除については、事務処理が確立されている大企業に対し、その適用を禁止する措置を設けるべきである」(16)と要望が出されている。

(3)非課税売上対応の仕入税額控除の可否
 平成5年の税制調査会の「今後の税制のあり方についての答申」では、消費税の仕組みと非課税について、次のように説明している。
 「消費税における非課税とは、このような仕組み(注:多段階課税方式のこと)から外れることを意味する。すなわち、当該物品等の販売について課税がなされないということは、同時に、その仕入れに係る税額の控除も行い得ないこととなる。」 この説明についてさらに明確な根拠を検討していく。 非課税売上と仕入税額控除の関係における他の議論は以下の通りである。

@ 政策的に課税取引より転嫁を少なくしているに過ぎないという考え方
 「財の最終的な消費者は、ゼロ税率なら税をまったく負担しないが、免税の場合は、(その財の生産に必要なすべての財が免税されているのでないかぎり)ある程度の負 担を負うことになる(ここで免税と表現されているのは消費税法における非課税を意味する)」。
 「つまり、消費税法導入当初より非課税取引は、仕入税額の価格転嫁を通して、消費者にある程度の負担を求めることを予定している」(17)。「課税代替措置としての非課税の場合についてだけは前段階税額控除を否定することは必ずしも不合理ではない。」「例えば金融取引の場合、仕入控除を否認する形で実質的に課税すれば足りる場合」(18)である。

A 税収の確保を図るため還付に応じられないという考え方
 「非課税売上に前段階税額控除の権利を認めると業界団体は非課税を求めて殺到する。」「かつ、還付手続きに伴う行政費用が膨大にならないように、という政策的理由から前段階税額控除の権利が排除されているにすぎないように思われる。」「非課税取引に前段階税額控除を否定するのはそれによって実質的な課税をするための方法として用い得るということである」(19)。

 この点につき、我々は別の見解を示す。
 「非課税売上対応の仕入税額を控除しない」と言う考え方は、財・サービスの流れの中で、非課税対象物がすべて非課税として取引されていることを前提としている。確かに、そう言う前提の中では非課税売上対応の仕入税額は控除すべきではない。
 しかしながら、日本の消費課税システムにおいては、帳簿方式を用いており、前段階の課税・非課税については個別に把握することを予定していない。すなわち、インボイス方式のような形で把握しない限り、財・サービスの流れの中で、非課税対象物がすべて非課税として取引されていることを前提とすることには、矛盾がある。
 よって、非課税売上の対応の有無によって、仕入税額控除の可否を決めるべきではない。帳簿方式の仕入税額控除方式を採用している日本の消費課税システムにおいては、仕入税額の控除対象とするか否かによって、仕入税額控除の可否を決するのが潔いのではないかと考える。

(4)小売価格転嫁の問題
 「非課税取引を有する業者が消費税を転嫁できずに負担するケースが生じてしまう。」「売上に関しては消費税が課税されない反面、仕入に関しては仕入税額控除を受けることができない」(20)。ここで3のケースにて小売業者が価格を消費税導入前と同じにしなければならない場合以下の状態になる。

 
製造業者
卸売業者
小売業者
消費者
税抜き仕入
0 
100 
200 
 
税込み仕入
0 
110 
220 
300 
税抜き売上
100 
200 
300 
 
税込み売上
110 
220 
300 
 
税収
10 
10 
0 
合計 20 

 一見すると消費者への価格の転嫁はなくなり、消費者の側では転嫁を受けない(影響を受けない)。しかし、小売業者の利益は減少し、小売業者が負担することになる。 このケースが想定されるのは、医療法人であれば保険診療報酬を消費税導入前と同じ(導入後伸び率を抑えた)状況、不動産の賃貸なら住宅家賃を据え置いたといったことではないか。(1)と同じく、小売業者に不公平感を与える。
 
2.数値例を用いた損税の検討 4.日本における損税問題の解決と課題
 
 
CopyRight© 2005-2007 名古屋青年税理士連盟 All Right Reserved.